2009. 8.23.「市民参加を進める情報提供」/宮本

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市民参加の意義について、一般的には以下のように説明されています。

《姿勢》

自己責任                       あれもこれもから、市民自らが責任ある選択

自ら担う(新しい公共)        社会サービスを担う

 

《期待される分野》

少子、高齢化に対応                   自助、共助で行政への依存から脱却

多様化するニーズに対応    市民団体の多様な活動で対応

コミュニティの力を取り戻す  地域の防犯、福祉、教育力の向上

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市民参加によるまちづくりについて、合併協議会が配布した「合併協議会の概要」では 〜新市の将来像とまちづくりの視点〜 の中で、次のように述べています。

市民参加によるまちづくり

新たな子育て世代の転入や団塊の世代の定年などを背景にしたライフスタイルの多様化により、行政への要望も多様化するものとみられ、これらの要望にきめ細かく対応するとともに、自分達のまちは自分達がつくるという意識つけをしていくため、市民参加によるまちづくりを進めます。

ここでは、「自分達のまちは自分達がつくるという意識つけをしていくため」を、大きな目的の一つとして位置付けています。

市民参加まちづくりは「意識つけ」のために行うものなのでしょうか?

「意識つけをしていく」ことは市民参加まちづくりの目的ではありません。
市民参加まちづくりの本当の目的を一緒に考えていきましょう。

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一般的に言われている市民参加の意義を紹介しましたが、この考えだけでは、次の図式のように行政の「効率化」を進めるだけになってしまう恐れがあります。

行政サービスを縮小
行政サービスを市民に自ら絞り込ませる
切り捨てたニーズへの対応は市民活動に依存する

地方分権化を推進
国の仕事が県へ → 県の仕事が市町村へ
そうすると、市町村の仕事は増える一方になってしまうので
市町村の仕事 → コミュニティ、団体、市民へ

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主権在民
government of the people, by the people, for the people
は誰でも知っています。

しかし、公害問題の歴史をみると、市民が声を上げても拒絶された時期があったことがわかります。

市民は本当に主権者なのでしょうか?

特別な知識や能力を持たない普通の市民に、主権を委ねられるのは何故でしょう?

 

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CS神戸というNPOを主宰する中村順子さんという人がいます。

平成7年1月阪神淡路大震災のとき、臨時の避難所を見て、「テントで埋め尽くさないで!くつろげる場所が必要だから!」と行政担当者に話をして、一面に設営されたテントの一部を撤去してもらい、テーブル、イス、お茶を用意して、避難者が一息ついて会話できる場所を作りました。

また、「避難者も役立ち感が必要だから!」と、避難所となった学校の土が残っている部分に、避難者が育てる野菜畑を作りました。

避難者の孤立の問題がちゃんと解明されるようになったのは、平成16年10月の中越地震。
平成19年7月の中越沖地震で、ようやく始めから避難所に懇談スペースが設置されました。

市民には、生活者、人間としての直感力、創造力、実行力があり、先端を切り開いているのです。

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市民の感覚      市民は問題の根本を感じ取ります

市民の創造性    市民は工夫して挑戦します

市民の責任      市民は、まちづくり協定など行動に責任を持ちます

市民の負担      公共負担も、企業負担も、元をたどれば市民負担なのです

市民は当事者   多様な市民の一人ひとりが、それぞれ多様な当事者の一人なのです

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オランダ、ドイツ、スイスなどに在住された方から「車いすが段に差し掛かると、すぐにたくさんの手が伸びてくる」という話をよく聞きます。

施設は対応できていなくても、市民の行動で、バリアフリーが実現しているのです。

 

 

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地域の人が居場所を持っている学校があります。
それは習志野市の秋津小学校。

地域の人たちが自分たちで材料も調達して禽舎をつくり、図書室を改造し、ビオトープを作りました。
よく手入れされていて、いつも子どもたちの姿があります。

彼らは生涯学習スペースとして4つの空き教室を使って活動しています。
自分たちで鍵を管理し、平日も休日も、いつでも子どもたちと混じり合っています

活動が始まってから登校拒否ゼロが10年以上続いています。
これは驚異的なことなのです。

国際調査で比較すると、日本の子どもたちは自己肯定感が低く、親も子育てについての自信が低いことが知られています。

しかし、秋津では子どもたちの自己肯定感が高く、地域への愛着も高いことが明らかになってきました。

 

 

 

市民が行動すると
⇒集合体である社会そのものが変化します。

これは住みよい地域文化を作っていると言えます。

市民参加は、社会環境そのものを変えるのです。

 

 

 

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イタリアのレッジョ・エミーリアという小さな町に、世界の教育学者が注目しています。

ムッソリーニに政権をゆだねた反省から、再び戦争を起こさないために、
市民が自分たちの手で教育を構築しました。

彼らは、こどもの疑問から始める教育手法を作りだしました。
教育施設は、豊かな感性を育てるように作られています。

日本の研究者が訪問した時、学校から夜の集まりに招かれました。
8時を過ぎて地域の人たちが集まってきて、「今日は、子どもたちが健やかに育つための町の環境について話し合いましょう」と提起されると、次々に意見が出て盛んな話し合いになったそうです。

「より良いまちを育てていこう」と熱意をもった市民が、長年にわたり関心を持ち携わることで高度な専門性を身につけ、世界から最高レベルと評価される教育を創造しているのです

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3つの部屋があります

1つ目は「STAFF ONLY   =入っても見てもダメ       拒絶されています

2つ目は「GUEST ROOM =使えるけど手出し無用  であっても主体ではありません

3つ目は「自分の部屋            =自分色に変えられます  自己決定、自己責任を伴う主体者です

あなたは社会の一員として、社会の中に自分の居場所がありますか?

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一人の市民にとって市民参加とは?

   社会を心地よく変えていくこと

      住みこなす、住み成す

      自分のふるまいも変化する

   社会の一員として生きること

      社会の中で自己表現する

      (自己実現=秘めた力を発揮する)

社会の中で能動的にふるまえることで、大きな喜び(自己肯定)が生まれます

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参加から協働へ

大和市 土屋前市長

「市民、市民団体、事業者が時間、知恵、資金、場所、情報などを出しあって、まちづくりを進めましょう」と呼びかけ、「協働」を明確に打ち出しました

市民の意見を行政に反映することについて、面白い事例を残しています。

総合計画を策定した時、各地で懇談会を開いたほか、ハガキ、ファックス、メールなど、多様な方法で意見を求め、2千を超す意見が寄せられました。
ハガキの意見が最も多かったのですが、計画にもっとも反映したのは懇談会での意見でした。
その場で真意を確かめることができ、対応について意見交換ができたからだと思われます。

ニセコ町 逢坂前町長

「都合の悪いことこそ、市民に真っ先に知らせます。」

国立市  上原公子前市長

『人口が3分の1になる21世紀に、国立市を生き残らせるために知恵を貸して下さい』と呼びかけて公募した市民会議に、多数の専門家がボランティアで参加してきました」

ミュンヘン市

          NPOだけで実施します

オレンジ  NPOと行政が協力して実施します

黄色       行政が実施します

行政と市民が持ち味を生かして、協働で施策を進めています

図版

ミュンヘン市青少年局の施策
卯月盛夫・木下勇氏作成

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今ご説明した事例は、いずれも市民と行政の協働です
一方、市民「参加」という言葉は、行政が中心という意識が残っています

参加から協働への変化は天動説から地動説への変化に似ています

行政(地球)が真ん中にある参加(天動説)から
みんな(多数の天体)でまちづくりする協働(地動説)への変化です

このような大きな変化は、理屈でわかっても感覚が付いていくには相当の時間がかかります
今朝、太陽が昇ってきたのはどちらの向きですか?

東だと思う人は地動説なのです
太陽は動きませんから、今朝昇ってきたところに今も輝いているのです

印西市の市民参加条例を作る会は、市民と行政職員が同じテーブルについて進められました。
意見を交換しながら会を重ねるうちに、互いに信頼と尊敬が生まれていきました。

印西市市民参加条例(市民案)には前文がありました。

この前文は議会で削除されたので条例にはありませんが、
私たちアゴラの会では「信頼の原則」をあらわすものとして大切にしています

その一部をご紹介しましょう

このような多様性に富んだまちで、
人々が心豊かに生きいきと暮らしていくためには
一人ひとりの市民が印西市を「わたくしたちのまち」ととらえて、
身近なことから市全体のことまで、主体的に関わっていくことが大切です。

わたくしたち、市民と市は、
互いに信頼し合い、市民の知恵と感覚を生かした
協働のまちづくりを進めるために、この条例を定めます。

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狛江市では条例に加えて、市民参加と市民協働の推進指針を定めています
市民をのけものにせず、協働の意識がしっかりと表れていますので、ご紹介しましょう

指針の構成(抜粋)

市民参加を推進するためには、参加する市民が行政の取組について関心を強め、その容を十分に理解することが必要になります。

そのため行政の役割として、市民参加の前提条件となる行政情報を的確に市民に提供するとともに、市民が参加しやすいような多様な仕組みを実施することが求められます。

T 市民参加と市民協働を推進するための基本条件の整備(抜粋)

市民参加と市民協働の推進に必要な具体的情報については、各担当部署が独自に公表・提供する体制の確立を目指します。

U−A 市民参加の推進(抜粋)

各部局の通常の行政活動において市民の意見を求めることが必要と判断したときは、・・・条例に定めがないことでも市民参加の促進にとって必要なことは積極的に行うようにします。

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市民に情報を伝える場合、何を伝えればいいのでしょう?

ギターを例にとって考えてみましょう

・歴史、作者、誰が使った?
・音(音量、音色・・たたくことも)
・振動、工芸品としての価値
・塗料の安全性
・借りる方法・料金
・単にギター一つにしても、大変多様な情報があるのです

会社の業務の中でも、想定質問を用意することがありますね
何にでも答えようとすると、膨大で不毛な作業になってしまいます

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市民が意思決定に参加するための情報提供のあり方は、どうすればよいのでしょう?

《事前に準備する情報》

基本的、根幹的情報を整理して提供することになります
しかし内容は、問題の種類や社会状況などにより変わるのです

《求めに応じて提供する情報》

その他の情報は、その都度提供することになります

行政と市民の間に信頼関係がなければ、的確な情報はなかなか出てこないでしょうし、信頼関係があれば、より的確な情報が提供されやすくなるでしょう
提供される情報の深度は、信頼の深さにに比例するのです

的確な情報を提供するには、市民と行政がコミュニケーションをとり続けることで、相互の信頼を深めるとともに、市民と行政が「根幹的」と感じる部分のずれを小さくしていくことが必要なのです。