学社融合フォーラムin仙台
2006.10.14.
基調報告「キャリア教育への取り組み」
融合研東北支部
山崎 賢治

 準備の時間をお借りして、針生社長のご紹介をしたいと思います。針生印刷株式会社(現ハリウコミュニケーションズ株式会社)の三代目として三十歳で社長に就任されました。ITをいち早く事業に取り込み、ITの分野で協同組合「みやぎマルチメディア・マジック」を設立され、情報化に取り組まれてきました。最近では企業と地域の関わりを重視し、NPO等との連携を深め、教育や地域の情報化活性化をテーマに幅広く活動されています。それでは針生様、よろしくお願いします。
ハリウコミュニケーションズ椛纒\取締役
針生 英一

 皆さんこんにちは。ただいまご紹介いただいた針生でございます。今日はキャリア教育の実践報告ということで、私どもが昨年から取り組んできた事例を皆様にご紹介させていただきたいと思います。現在取り組んでいますのは「地域自律民間活用型キャリア教育プロジェクト」という経済産業省の委託事業のひとつで、仙台のほかに現在全国二十八の地域で展開されています。事業としては平成十七年度から三年間です。民間コーディネーター、つまり当社のような企業やNPOが地域の特性に合わせた独自のキャリア教育プログラムを開発します。経済産業省からは、「各地域の教育委員会、学校、産業界と連携してモデル事業を推進して下さい。この三年間の中で課題を整理してプログラムのバージョンアップや地域的な展開を推進して下さい。そして四年目以降、各地域できちんと自立的に展開できるように今のうちから考えてやっていって下さい。」という宿題をいただいております。
 経済産業省は産業を司るお役所ですので、これからの産業とか企業の育成、地域活性化を担っていく若い人材をどんどん育てていかなければならない。キャリア教育については文部科学省の施策とダブっているところがありますが、経済産業省の場合は「産業人材育成」という視点でこの事業を展開しているということになります。
昨年、東六番丁小学校で展開しました授業の様子をビデオで記録・編集しております。だいたい二十五分ぐらいの映像なのですが、私どもが実践してきたキャリア教育の全貌をご覧いただきながら、解説していきたいと思います。

私どもは二十時間の小・中学校向けのプログラムを作りました。昨年度は東六番丁小学校六年生、それから黒松小学校五年生、六年生で展開しました。今年度はそれに加えまして私立のウルスラ学院、ここは小中一貫ですので七年生ですね、現在三校で実施しております。また大学でも今年の後期から東北福祉大学で実施します。大学向けのプログラムはもちろん小・中学校向けとは全く違ってきます。二十時間のプログラムというと結構長いようで短いのですけれども、他者や社会との関わりをテーマとした様々なプログラムがございます。我々のキャリア教育プログラムというのは、子どもたちの自立心を養うという視点をかなり入れていますので、一方的に教わるような授業形式のキャリア教育とはかなり違います。どのあたりがどう違うのか、ビデオをご覧いただきながら、話しを進めて参りたいと思います。

まず最初にオリエンテーションから入りますが、「夢の設計図」を子どもたちに書いてもらいます。文章とか絵で表現することで、初めて子どもたちにとっては自分の将来と向き合ってみるというプログラムです。この時点で将来の夢はまだ漠然としておりまして、ほとんどの子どもたちにとって初めての経験であるということで戸惑いもあるでしょうけれども、先ず考えさせてみる、書かせてみることが大事です。自分の将来に対する意識づけを行う、というのが「夢の設計図」の授業になります。
「二十歳で楽天球団の野球の選手になる。なんとパリーグで初めてホームラン八万本を達成する。」なんて、本当に夢みたいなことを書く子がいたり、現実的な夢を書く子がいたり様々です。はじめはなかなか書けない子もいますが、それはそれでオーケーです。自分の将来に対する想いを描くことのできるタイミングは子どもによって違うからです。この授業を進めるうちに、段々と考えを深めていってもらえばいいのです。

次の授業は、「riding a bus」というプログラムです。教室を真ん中からYESのバスとNOのバスの2つに区切ります。そして「早起きは得意だ」など、実は仕事に関連する様々な質問をして、とっさに判断させ、YESであればYESの方に、NOであればNOのバスに乗るというゲームを行います。このゲームはワークショップの中でよく使われる「アイス・ブレイキング」という手法です。アイス・ブレイキングは他にもたくさんの手法がありますが、その目的は和やかな場づくりで「硬い氷を溶かす」という意味合いがありますので、体を動かしながら、楽しく安心して学べる場づくりをしていくというのがこのriding a busです。
勉強が苦手な子は、教室の中が安心できる場ではないんですね。退屈だったり戦々恐々としていたりしています。私たちのキャリア教育は「明確な答えがない授業」です。1+1が2にならなくてもいいんですね。子どもによっていろいろな気づきがあって、いろいろな答えがある。それを引き出してやるのが、授業を進行しているファシリテーターの仕事です。学校や勉強に対して苦手意識を持っている子の意識を引き入れていくために、アイス・ブレイキングは有効な手法です。
それと、このriding a busでもうひとつ重要なことは、自分の持っている価値観に気づかせることです。それと同時に自分とは違う価値観を持っている人もいるんだ、ということを感じさせることも非常に重要です。

次にこれもゲーム的なものですけども、インターネットを使って「動物占い」をしています。自分がどういう動物に属しているかということで、客観的に自分を見つめてみるということをゲーム的にやっています。結構あたっているみたいですし、子どもたちは面白がってやっていますね。
「人気者の黒豹で、明るく笑いながら困難を切り抜ける。(合ってる、合ってる)」

次は「友達から見た自分の将来像」というテーマです。友達の良いところ、伸ばしていってほしいところ、そしてその特性を活かしてどんな仕事に向いているかを友達に書いてもらいます。五〜六人が一つのグループになってお互いに紙に書いていくわけですね。そのなかでは決してマイナスなことは書かない、プラスのことだけを書いていくということで、「友達はこんなふうに自分のことを見てくれていたんだ」という、安心感とか信頼感がそこで生まれてきます。人によって多様な良さがあるということに気がついていく。それが自分たちの小さな自信につながっていくというカリキュラムです。今、いじめの問題が大きく取り上げられていますが、多様性を認めたがらない風潮が根底にあるわけです。教室の中で「お互いが認め合う」「安心感がある」「信頼関係を作る」ための具体的なアクションが必要とされているのだと思います。

次は「推薦状作り」というプログラムですけども、二人でペアになりまして、お互いがインタビューし合いながら、お互いの推薦状を作ってみます。この推薦状を発表するのは就職試験の面接会場という場面設定にしてあります。相方を面接官に、「○○君はこういう良い所があるんで、ぜひ採用してやって下さい」というPRをします。ここでは「インタビュー」がキーポイントです。いかに相方の話しを引き出し、上手に推薦状としてまとめるか、を学びます。
「一番大切なのは、楽しむこと。友達を推薦しましょう。「自分を」でなく、「友達を」推薦しましょう。相方を会社の人に一所懸命売り込まなければいけませんよ。」
「推薦状、六年二組●▲■、推薦する人は○▽□君です。推薦する仕事はレスキュー隊です。推薦する理由は、一年生くらいのときに人が困っているのをテレビで見て、そういう困っている人を助けたいと思ったからです。」
アナウンサー志望の子は、得意な早口言葉を披露してくれました。和菓子屋さんの跡継ぎの子の推薦文は「推薦する理由は、一生懸命働いている親の後ろ姿を見て、僕もこういうふうにやりたいなと思ったそうです。」そして本人も「いらっしゃいませ。こちらは当店のお勧めですよ。」と、接客のしかたを披露してくれました。それぞれのパフォーマンスが飛び出し、大変楽しい面接会場になりました。

次は「お仕事ルーツ」というプログラムに入っていきますけど、自分の両親を含め、三代にわたってどんな仕事をしてきたのかというのを調べてきて、ポストイットに書き込んで時代ごとに貼り出していくという作業をします。貼り出していくと、昔はどんな仕事があったとか、昔あって今無い仕事は何かとか、時代と共にどういうふうに仕事が変わってきたかが子どもたちなりに見えてきます。そういうことを話し合いのなかで気づかせていき、自分たちの時代にはもっと世の中や仕事が変わっているな、ということを予感させるという狙いもあります。
もう一つの狙いは、家で仕事について親と話し合う機会を持つことです。親の仕事について改めて聞く機会というのはなかなか無いので、この機会に仕事のこと、生き方のこと、価値観など、いろいろ話し合ってもらうというのも大きな目的の一つでもあります。

それから「仕事って何?」というプログラムですが、グループで興味ある仕事を先ずカードにどんどん書き出してもらいます。書き終わったところでファシリテーターが様々な質問をします。たとえば資格が必要な仕事と必要じゃない仕事とを分けてみてください、定年がある仕事と無い仕事と分けてみてください。そういう質問をきっかけにしていろいろ仕事について考えるというプログラムです。
「七十歳でもできる仕事と、そうではない仕事は?」「この仕事は七十歳では無理だよ、七十歳では無理だ...。」「でも七十歳でも若い人もいるよ」




次はですね、「フリーターと正社員の違い」というプログラムで、それぞれの違いについて考えさせます。先ずフリーターのイメージをカードに書き出してもらいます。次にフリーターの良いところ、悪いところというふうに分けて、みんなでフリーターのイメージについて話し合いをします。
「決まった職業についていない、無職、自由業、アルバイト、資格を持たない仕事。」
「趣味が自由にできる、自由。」「収入が少ない。」「安定していない。」「ボーナスが無い。」「正社員です、というのとフリーターです、というのでは、実際は一生懸命やっていても、フリーターのほうがイメージは悪い。」「一つのことに一生懸命になれない。夢が決まっていない。」いろいろな意見が出ます。
次に元フリーターで現在正社員の人と、元正社員で現在フリーターの人と、二人に教室に来てもらって、それぞれの仕事に対する考え方とか、働き方とか生き方とか、そのような体験談を含めて話しを聞く機会を持ちました。彼らの生の話しは子どもたちにとって大きなインパクトがあります。


次の「地域の仕事を知ろう」では、私の友人でソフト会社社長、株式会社エクシオンの三浦さんをお招きし、仕事の内容とか、仕事の楽しさ厳しさ、やりがいとかについて話しをしていただきました。     
三浦さんは「社名の「シオン」は拡張・発展を意味するEX+『四恩』の造語です。我々が生まれてから受ける4つの恩に感謝し報いながら成長する会社という意味で命名致しました。我々を支えてくれる「家族や仲間」の恩、我々の仕事を支えてくれる「お取引先」の恩、我々を信じて商品を買って下さる「お客様」の恩、我々のような者でも商売がやっていける世の中を創って頂いた先人や「国家・社会」の恩、これらの恩を忘れず、報いて成長していく事が我々の理念です。人の役に立つ、世の中の役に立つことが仕事であり、それがやりがいです。」とお話しをいただきました。子どもたちはこの一言で、「仕事とはお金を稼ぐことだけではないんだ」ということを強く感じ取ってくれたようです。
次のプログラムでは子どもたちが自分の興味ある地域の企業、お店などに行って仕事を調べてまとめる、という授業があるんですけども、その準備的位置づけでもありまして、三浦さんにインタビューを試みるんですね。インタビューの仕方について、どういう質問をしたらいいかとか、自分たちの理解を深めるためには、どうしていったらいいかということを子どもたちに考えさせます。


そして地域の企業とかお店とか、いろいろなところにご協力をいただき、「お仕事インタビュー」というプログラムに進みます。何人かで一チームになりまして、それぞれ興味のあるところに行って、そこの仕事について調べてくるということをやりました。ここは映像制作の会社、クロマテックシステムズさんです。コマーシャルを作ったり、テレビの番組を編集したりしています。
島崎専務「私は小学校時代からこういう仕事をしたかったんですよ。だから自分で会社を立ち上げたんです。」
子ども「面白かったです。」「いろんなことを質問したり、発見というか、どうすればいいかということを発見したりしました」
次に自分たちが調べてきたことをまとめて発表します。壁新聞にしたり、パソコンでまとめてプレゼンテーションしたり、グループごとに工夫して発表会を行いました。このときに、六年生だけでなく、聴衆として五年生にも入ってもらって聞いてもらいました。次年度の布石を打ったということです。
株式会社都市設計を訪問した子どもたちの発表です。「社長さんが設計士をやろうと思ったのは、幼いときから絵を描くのが好きだったからです。いずれ画家になりたいと思っていたそうですが、高校の頃から建物の設計という仕事に興味を持ち、この世界に入ったそうです。」

次は、「新しいタイプの仕事について考えてみよう」というプログラムです。まず椅子取りゲームをして、「実は社会には全員分の仕事が用意されていない」ということを理解させます。みんなが仕事に就くためには、椅子を増やすか(仕事自体を増やす)、一つの椅子に何人かで座るか(ワークシェアリング)、いろいろな工夫が必要になります。社会では新しい仕事を増やしていくということが不可欠ですが、一つの事例として、社会の課題を解決するために生まれた「ビッグ
「ビッグイシュー」
一冊二百円でホームレスの人しか販売できない。販売は登録制、希望者には最初に十冊を無償提供し、これを売った二千円を元手に以降は一冊九十円で仕入れ、一冊売ることに百十円が収入になる、というホームレスの自立を助ける仕組み。元々はイギリスで創刊され、世界で二千六百万部が発行され、高い評価を得ている。二〇〇五年より仙台でも販売がスタートした。イシューという、ホームレスだけが売ることのできる雑誌があります。それを出版している会社「有限会社ビッグイシュー日本」の取り組みや考え方について取材して、ビデオ教材を作りました。それを子どもたちに見てもらいながら、失業問題とかホームレスが生まれるような社会の問題を、福祉ではなくビジネスの手法を用いて解決していく取り組みについて学びました。社会に必要な仕事を誰かが作り出していくんだということを学んでいく。最後にビッグイシューの佐野社長の「これからはどこかの会社に『就職』するという選択肢だけでなく、『創職』つまり自分たちで世の中に必要な仕事を創り出す、ということも考えていってもらいたいですね」という言葉が、子どもたちの心にとても印象深く残りました。

佐野社長の言葉を受けて、最後のプログラムに移ります。「私たちの街構想」というワークショップです。自分たちはどんな街に住みたいのか、それを阻害する要因は何か、この街をどんな風にしていきたいのかということをディスカッションさせて、それを実現するためにはどんな事業をしていけばいいのか、子どもたちなりの事業プランを立てるプログラムです。仕事と社会というのはつながっていて、自分たちの暮らしや社会環境も、仕事のあり方と密接に関係しているんだよということをこの中で学ぶ。社会をより良くするための仕事を考えるということは、市民として自立して暮らしていく協働型市民の育成ということにもつながっていくという考えでやっています。
ビデオを見ていただいて分かるとおり、カードなどを使って自分の考えをどんどん出させる、それを基にしてディスカッションさせるという繰り返しで進められています。そして最後に自分たちの考えたプランについてグループごとに発表してもらうという流れになります。
今出てきた男性二人が担任の先生です。先ほど出ていた女性が我々キャリア教育のスタッフ=ファシリテーターです。それぞれ発表したことを黒板に書いていくと、一つの大きな流れが見えてきます。

最後は今回のキャリア教育全体の振り返りです。振り返りは非常に大事な要素として毎回どんなことを感じたということを書いてもらいます。子どもたち一人ひとりの反応が、プログラムのバージョンアップにつながるのです。
「新しいことがまた生まれるんじゃないかと思いました。」「社会へ出てからの仕事を持ったときの生き方的なものが分かった」「ビッグイシューを配っている人にインタビューしたいなと思いました。」「友達とインタビューを通して考えられたのが良かった。」「仕事について意味などが考えられるようになった。」「発表したり、インタビューを通していろんな経験ができた。」
担任の熊谷先生は、「教育は芸術だと思っています。つまり君たちは芸術作品だということです。先ほど発表する力がついた、という話しが出たんだけども、力がついたと思う子がいたということだけで、やってよかったな、と思います。」

以上、こんな感じで二十時間ぐらい。実際先生のお話を聞くと、まとめたりする時間が足りなくなるので、国語の時間、社会の時間などを割いていただいていまして、実際四十時間近くかかったというお話しです。我々にとっても得るものが大きい体験でした。

次にキャリア教育について我々なりの解説を最後にしたいと思います。我々は企業で仕事をしております。仕事を取り巻く環境がこの十年で大きく変わったと感じております。一つは情報技術による生産性向上と仕事の標準化、市場主義です。「コスト競争に勝つ」ということが企業にとって大命題になっていまして、逆にそれによって大切なものがだんだん失われつつある(あるいは重視されない風潮が出てきている)のでないか。たとえば職人としてのスキルであったり、感性とか経験を生かすことといったようなものです。こういったことは時間をかけて育てていくものなんですけども、どうもその辺がインスタントになりつつあるという感じがしています。
次に終身雇用の崩壊ですね。企業は人件費を固定費から変動費化させたいということで、正社員を切り捨ててパート、アルバイト、人材派遣を大量に受け入れ始めました。こういったことを企業ではどんどんやっているわけですけれども、それが雇用の不安定化を生み、若者の将来の不安につながっている。
それから東京一極集中と地方経済の疲弊ということです。東北の中では仙台一極集中といわれているんですけど、東京のパイと仙台のパイは全然違います。また、仙台で物が売り買いされても東京にストロー状態でみんな吸い上げられてしまう。そういうことも現実です。
最後に格差社会、二極化ということが書いてありますけど、そんなような時代になってきている。それからグローバル化による変化ということで、国際的な価格競争とか、工場の海外移転による地元の雇用喪失とか、特に地方にとって大きな問題がある。「コミュニティビジネス」
地域にある様々な課題を解決し、
地域を元気にするための小さな
ヒジネス。
利益を追求するための事業では
なく、地域事業としてコミュニティ
の元気に貢献し、人間性の回復
や社会性の配慮をもとに健全な
経済的碁盤が確立され、維持的
に地域の活性化に貢献する事業
のこと。
そしてコミュニティ崩壊の危機ですね。市民協働の時代へということなんですけど、ここの所はですね、今後新たなコミュニティに根付く仕事=コミュニティビジネスが生まれてくる可能性があるということでは、一つ注目していく必要があるのかなと思います。地域に密着し、地域の課題を解決するためのビジネスがそれです。NPOの事業なども含まれてくるのだと思います。
次に自治体の財政難のなかで公共事業が大幅に削減されているということです。日本には建設関連業が約六十万社もある。こんな狭い日本にですよ。地方には核になる産業が育ちにくいので、建設業が地方の雇用を支えてきたのは事実です。公共事業の削減によって雇用の受け皿が地方から無くなってきていると言う事。こんなふうにざっと見ても、我々の仕事を取り巻く環境が激変してきているというのが時代背景としてある。そんな中で、子どもの自立心を育む取り組みというのは、学校だけの課題でなく、我々企業にとっても大きな課題としてあるんだという認識を持たざるを得ないわけです。地域で育った子どもたちが企業に入ってくるわけですから、じゃあどうやって子どもたちを育てていくのかという課題に対し、企業が持っているリソースも何らかの形で使えるものがあるのでないかということですね。学校に教育を丸投げし、外から批判しているだけでは何も変わらないんですね。

我々が子どものころは何となくボケーとしていても、仕事にありつくことができた時代だったと思うんですけども、今は(地域)社会の変化や仕事を取り巻く環境の変化によって、いろいろな問題が出てきて、子どもの心の問題にもつながっているということがあるだろうと思います。
今我々はこのキャリア教育について、学校と市民センターを拠点として地域を巻き込んだしくみ作りができないだろうかということを考えています。地域の拠点として学校と市民センターは非常に重要な位置づけであると考えておりまして、市民センターを拠点としたキャリア教育の場づくりができないかと考えています。
それからもう一つは、社会で働く意味について、改めて問い直す必要性が求められているんだろうなと思います。これはやはり大人の問題ですね。大人も毎日ただ何となく働いているという部分があったり、特にこの十年、十五年というのは厳しい時代でしたから、大人も希望を失いかけているということがあって、「働くということは果たして自分にとってどういうことなんだろう」ということを大人の問題として改めて問い直す必要があると思っています。今回のキャリア教育は私たちにとってもこういうことに気づく機会を与えてくれました。その中で、社会の中で生き抜く力、経済産業省的に言うと、「社会人基礎力」という言葉を使っていますけども、これを育成する機会を学校教育と社会教育の連携の中で体系的に提供し続けることが重要ではないかと考えたわけです。
皆さんにお配りした黄色のパンフレットの三ページ目に図が載っています(次ページの図参照)。人間の成長に必要な要素と、その関係性を表した図ということでとらえていますけども、一番下に人間性とか基本的な生活習慣というのがあります。身の回りのことを自分でしっかりできる、思いやりを持つ、基礎的なマナーを持つということですね。現在、基礎学力向上ということが叫ばれています。左側に基礎的な学力、それから右側に専門知識があります。これは仕事に必要な知識、資格などということで、大学とか専門学校で学ぶことがここに入る。もちろん社会に出てからも、こういう専門的な勉強をしていかなければならないですね。
それから一番上の四角のところに「市民性を育む」という部分があります。社会を俯瞰し、社会とのかかわりの中で自分の役割と居場所を認識する、公共を担う心を育むということ。海外ではよく「市民教育の重要性」ということを言っていますけども、自分も一市民として社会の中で一定の役割を果たしていくこと。そういう心を育むことが非常に重要視されてきているわけです。ですからこの真ん中にある社会人基礎力というのは、そういったものを上手くつないでいく「糊のような役割を持っているもの」として位置づけられているというふうに我々は考えておりまして、その中には「前に踏み出す力」とか「考え抜く力」とか「チームで働く力」が重視されています。
そしてその行き着くところというのは、地域社会や職場の中で多様な人々とともに生活をし、仕事をしていく上で必要な基礎的な能力の育成をしていくんだということですね。それから、社会の変化に対応し、主体的に多様な人々と新たなしくみづくりや事業を起こす自立した若者を育成していかなければならない。それから市民協働を担う市民を育成する。自己中心的な若者が増えてきている(勿論、大人たちがそういう世の中を作ってきたということですが)という課題に対し、早期に社会との接点を作り、考えさせることは非常に大きな意味を持つと思っております。

弊社のプログラムの特徴としましては、先ほどもビデオで見ていただいたと思いますが、ワークショップ型授業です。グループワークやディスカッションなどをたくさん取り入れていまして、進行役のファシリテーターが一方的に「仕事とはこういうもの」と教えるのでなく、子どもたちが自ら気付く、個々の良さを引き出すというような双方向型の授業の組み立てを意識しております。
それから、家族友人、地域社会との関係の中で、自分自身を見つめ、自分の居場所と役割を見出す。これはいくつかのゲームの中でもありましたけども、多様性を認め合うことが重要です。あいつはこういう良いところがあるんだ、自分は気づかなかったけれど、こういう良いところがあったんだ、ということを認め合うことによって、信頼感をつくり出していく。自分は短所だと思っていたけど、別の見方をすればそれは長所にもなるんだ、ということに気づかせる。そういう体験が社会に出るまでに必要なことだと思っています。
それから、考える。テーマを与えて考えさせるわけですけども、それを紙に書く、ディスカッションをする、まとめる、発表する、深める。こういうサイクルの授業を心がけています。それによって考える力とコミュニケーション能力が育ってくるということだと思います。それから、様々な地域のプロから、仕事に対する考え方とか生き方を学んでいく。社会の課題を見つめ、それを解決するための事業を自分たちなりに提案するということで、これはビッグイシューの佐野社長の言葉にありましたが、「創職」つまり職を創るということですね。受身ではなく、自ら新しい提案を創り出し、行動していくことの重要性を感じて欲しいと思っています。
子どもたちが将来に向けて一歩前に踏み出す勇気が出るプログラムを作ってみたいと考えました。たとえばニートの問題を考えても、その根本は「自信が持てない」ということに行き着くようです。大学の就職部の方とお話しをしていたときに、最近は就職活動をしても、うまくいかないとすぐに諦めてしまい、安易なフリーター生活に入ってしまう学生がとても増えてきているという話題が出てきました。もちろん人生ですから落ち込んでしまうことも多々あるのですが、そこを乗り越えて一歩前に踏み出すことを避けてしまう。また、様々な企業の経営者からは、高学歴な子ほど離職率が高いという事実もあげられています。ちょっと負担がかかると、そこから逃げてしまう。そのちょっとの度合いが年々低くなってきている。こういった部分は教室の授業だけでは解決できない類のものでしょうが、そこの勇気、背中をぽんと押して上げられるようなプログラムができればいいなぁ、ということを考えたということです。
それから教科との連携ということでいけば、なぜ学ぶ必要があるかということを理解するということ。たとえば国語とか社会とか道徳とか、そういう教科教育と連携していくということが、学校教育の中でキャリア教育をやっていく際には重要であるという指摘を教育委員会や学校のほうからもいただいておりました。体験だけのプログラムではなかなかそこは埋まらないですね。体験と事前、事後のケアがしっかりプログラムとして考えられていることが重要だ、ということだと思っています。
次に学校で展開しやすいプログラムをどう作るかということですね。我々だけができるプログラムではさまざまな学校に広がりが出ませんので、先生方が自分たちで展開しやすいような、そういったプログラム作りをしていく必要があったということです。学校によって総合学習に対する様々な考えや流れがあります。私どものプログラムを押し付ける、という考え方では学校に広げていくのは難しいと考えました。基本形はありながら、学校の考えや実情に応じて広がりが持てるようなプログラムのモジュール化やフレキシビリティが必要です。

今後の方向性ですけども、市民センター(公民館)の連携ということを念頭においております。今年実験的にタイアップして、市民センターで五回シリーズのキャリア教育の講座を開催しました。その中でキャリア教育の市民サポーター、ファシリテーターを養成していきたいと考えています。これは、市民センターの講座で学んだことを地域で活かせるしくみをつくっていく必要があるんじゃないかということです。ただ学びっぱなしで終わるのではなくて、学んだことを地域のために役立てるしくみづくりを、キャリア教育を一つのきっかけにしてやっていきたいな、と思っています。
それから我々の取り組みの中で、数人の学生が一緒に取り組んでくれるようになってきました。教師を目指す学生の体験の場として、教育実習とは違った視点で学校教育に関わる、というメリットも非常に大きいのではないかと考えています。そして最終的に、市民の方々と共に自分づくり教育支援ネットワークという組織を立ち上げ、市民参画型の自分づくり教育、キャリア教育に結び付けていきたい。これはまさに学社融合が目指してきたところだと思います。
このあとパネルディスカッションがあります。その中でまた、いろいろな視点で話しが出ると思いますので、また、キャリア教育についての認識を深めていただければと思っています。長時間にわたりましてご静聴ありがとうございました。

山崎        針生社長、大変素晴らしい報告ありがとうございました。