【パネラー発言2 こどもの環境づくり】

     NPO佐倉こどもステーション 大場 博子



よろしくお願いいたします。佐倉こどもステーションの活動につきましては、後ろに模造紙と資料を置いておりますので後でご覧になって頂けたらと思います。

今、奥津さんから「遊び場がない。遊び場が変化してきている。子どもたちは力を持っているのにその環境をおとなが奪っている。」というお話がありましたが、まさしく私もそう思います。
それと共に子どもをとりまく人垣というかおとなたちも変化していますし、子どもたち自身も実はとても変化してきているのではないかと思っています。

昨日、幼稚園に通っている子どもを持っているお母さんたちと話していたんですが、ある幼稚園の年長の男の子の場合、仲良しの男の子がいてその子と遊びたい。
でも遊びたい相手の子は週に4日お稽古事をしています。
その子自身が「ぼくねぇ、お稽古事がいっぱいあって、遊びたいけどなかなかあそべないの。
こんどおけいこごとが休みの時にはあそぶからね。」って。5歳です。5歳でこういうふうに言います。
それでそのお母さんに「そういうことってけっこうざらにあるの?」ってききました。
「わりとそう。」という答えでした。その場にいた1,2,3才の子育て支援の担当の人に尋ねましたら、2歳から英語ですとか、英語だけではないですね、いろんなものを習わせ、習わせることで子どもが成長することに安心感を持つという、そういう傾向はすごく強いと言っていました。

また、小学校にはいりますと、学年ごとに下校時間が異なります。
子どもたちの下校の姿を見ていても3年生なら3年生、4年生なら4年生という同学年だけで帰ってくることが多いです。

中学校にはいると部活の時間もあります。
それまではある一定の時間に、私は宮前に住んでいるんですね。
京成の駅に向かってまっしぐらに道が一本ありますので「むらの一本道」と呼んでいるんですが、ある時間に歩くと子どもたちにわりと出会うんです。
ですが中学生になると全く出会わなくなります。

佐倉は商業地域も農業地域もありますが人口比としては東京に勤めにいっているサラリーマンの家庭が多いのではないかと思います。
そうすると日中のまち中はすごく静かです。電話をかけても日中の時間は留守電ばかりです。どなたもいらっしゃいません。
早くて3時すぎ。まぁだいたい5時過ぎにならないとそのうちの女性も、男性方はもっと後だと思います。
新谷さんもそこのところ話されると思いますが、まちの中に人がいないという状況です。

ですから子どもが遊ぶ場所がなくなっただけではなくて、子どもたちをとりまく人の環境が変わりました。
子どものまわりにいる人の種類というとちょっとおかしいんですけど、すごく少なくなってきているとも思います。子どもたちが出会うのは学校の先生、おうちの人、おかあさん、塾の先生、習い事の先生。
なんかおもしろいことを仕掛けてくださっている奥津さんのような方が学校にいらして下さればそこで出会いますけれども、なかなかそれは日常にはないという状況で、その事が子どもたちが自己表現が下手になったりですとか、友だちがつくれなかったりですとか、そういうことの大きな要因になってきているのではないかと思っています。

佐倉こどもステーションでは、それに対していろんな事業を今までも仕掛けていました。
けれど、もうちょっと立体的に「いろんな人がつながれる活動」というものがないのかということで、ちょうど2年前位に市民ミュージカルをつくろうということを提案しました。
それまでの活動の中で舞台を鑑賞するとか表現をする、町の中でロックソーランを踊るとかそういうことはしてきたんですが、それをもうちょっと立体的にして、市民も商店の人も行政の人も企業の人も子どもたちも一緒に何かを作り上げる機会ということで市民ミュージカルをつくるということを提案しました。
今日はそのことをもうちょっとくわしくお伝えできたらな、と思っています。

ミュージカルの目的は、いろいろな人たちがつながりのあるあたたかいまちができたらいいなということでした。
もっと具体的に言うと、このミュージカル上演は2004年3月と8月と2回ありましたけれど、それを見た人たちが「おっ、隣のなになにちゃんが出てるじゃん。」と言ってそのあとで「なになにちゃん、昨日なかなか良かったね〜。」と話しかけたり、本番に向かって数ヶ月一緒に練習を重ねていくわけですから、そこで今まで知らなかった人が知り合っていくとか、まち角で「この間のミュージカルに出てたんだねぇ。」「ポスター張りしたのよ。」とかいろんな会話がそこで生まれるといいなぁと思って始めたんですね。それは正しくそのとおりになりました。

ミュージカルに出演する子どもたちは佐倉市内の学校にチラシをまいて公募したんです。
プレ公演の時に約50人、本公演の時は80人近く、ほんとに一人づつの子が集まってきました。
特に3月のプレ公演では、佐倉市内で市民ミュージカルをつくるというのは始めてだったせいもあり、子どもたちもミュージカルをつくるって言われてもよくは分からない。
でも、そのチラシをみて、なんかピンときてお母さんに「ボクこれやりたい。私これやってみたい。」といって集まってきた子どもたちでした。

最初すごく声が小さかったんです。輪になって自己紹介をしたんですが、立ち上がって(消え入るような声で)「なになに小のなになにです。」言い終わる前にパタッと座っちゃうんですね。
名前すらはっきりとは言えないという状態の子どもたちでした。
もちろん緊張もあったと思います。でもそれから変わっていきました。

このミュージカルは全部子どものオリジナルです。
専門家はいますが教え込む存在ではなく、子どもの発想を膨らませたりカタチにする、という役割です。

ミュージカルをつくるには「お話づくり」「音楽」「ダンス」とさまざまな事が必要です。
そういうことを一人ではなく大勢で体験していくうちに自分の得意なことに気づいていきます。
自分の得意に気づくと自信が生まれます。自分に自信がつくと、他の人の得意なことにも気づいていきます。
プレ公演が終わった時、どの子もしっかりと相手に伝わる声が出るようになっていました。
それは声を出すという技術だけではなく、相手に伝えたい自分がいるという事なのではないかと思っています。
何かを表現するということは、少しづつ上手になっていく。その小さかった声がちょっと大きくなると「あぁ声でるようになったねぇ。」とか周りの認めがあって自信がつく。
あと友だちの・・・すいません。これを話だすと長くなってしまうので、もうちょっと切り替えます。

で、そのミュージカルですけれど、そういうふう出演者が仲間になっていくのはわりとたやすいと思うんですね。でそのまわりなんです。
たとえば子どもをそこに出している保護者の人たち。
単に子どもを預けてしまって「まぁ、うちの子積極的になって良かったわぁ。」って。それで帰っていってしまったら「まちづくり」にはならないと思うんですよ。
何にもつながらないです。お家からでてきてお家に帰っていってしまうので。そうじゃなくてその保護者の人たちも自分がミュージカルに関わっているということを感じて頂きたいと思いました。

そのためにミュージカルの練習はいつ見に来てもいいですよ、ということもしましたし、衣装づくりはお母さんたちに頼みました。それもお家でつくるんじゃなくて、練習している現場でつくってもらいました。
幸い広い小学校の体育館を借りられましたので、こっちで子どもたちが練習している。
こっちでお母さんたちがミシンをかけている、というわけです。
そうすると、とてもいい感じなのが、自分の子どもだけをじぃっと見ていると欠点が目についてしまいますが、自分はミシンを踏んでいるのでそこに集中しています。でも、新しい歌ができたな、新しいダンスができたな、という子どもと一緒のその感覚は持って帰れるわけですね。
そのことがなんかとても大きかったように思います。

あとポスターをお店に貼っていただくのも、もちろん佐倉市の商店会連合会の組織的なご協力も頂きました。
でもそれだけでは商店会に入っているお店にしか貼って頂けないということは分かっておりましたので、実行委員や出演者の保護者の人たちなどが一軒一軒訪ねてまわりました。約300店舗、佐倉の市内に貼って頂きました。

でもこれも普通の時ですと、貼って頂いて、「終わりました。ありがとうございました。」と外しにいくのが関の山なんですが、かなりムリをしましたけれど最低で3回、多いと4回、5回とそのお店を訪ねて、ミュージカル通信などを渡しながら子どもたちの様子を話していきました。
というのも子どもたちの身近なお店にこのポスターが貼ってあって、そのお店の方々にも「あぁ、自分が住んでいるまちの子どもたちが何かこれに関わっているんだな。これを応援しているんだなぁ。」という気持ちを持ってもらいたいと思ったからです。

ですから子どもたちの学校が休みの時にはその子たちと一緒にお店をまわりました。そうするとすごくあったかくお店の人たちも「がんばってるね。」とか「どんな具合?」とか声をかけてくださって、小さなコミュニケーションですけれど生まれました。
それはとても大事なことだったと思っています。実行委員は忙しい思いしましたけれど「ミュージカルで人と人とのつながりをつくりたい。」と思ったからには、それははずせないと思いました。

それからこういうことをするのに資金を集めるのも大変です。いくつかの助成金を頂きましたが、市民の方たちに少し支援をして頂こうと思ってこういうフィルムケースをつくりました。これをお店に置いて頂くこともしました。
このことをお店の方に話しておいて、お客さんに説明をして頂くわけです。

支援金をここに入れてくださった方にはこの手作りのはなびらのカタチのマスコットをお渡ししました。
「小さな花びらが佐倉中に散って、集まって、人のつながりのある楽しいミュージカルができたらいいなぁ。」なんてことを語って語って語ってまいりました。
結局200店舗位のお店に置いて頂いて、数にして約2000コ近くが戻ってきて、資金のうちの立派な一部分を成しました。
そういうことは今までしていなかったので初めて経験でしたけれど、いろんなことで人はつながっていけるんだなと思っています。

それと、もうひとつ大きな宝物が生まれました。ミュージカルをつくる現場には専門家がいます。
子どもたちは80人近くいるわけで6,7人のグループに分けました。
そのグループに「子どもパートナー」という人たちがいて、子どもたちと専門家との橋渡し役をしていました。

その人たち最初は「まぁしょうがないな。」というか「仕事だなぁ。」と思ってきていたと思うのですが、だんだんにどの子もかわいくなってきちゃうんです。
自分の子どもが出演している子どもパトーナもいるわけなんですが、その人は最初はこの子のためと思ってきたけれど、そうじゃなくてみんなどの子もかわいくなって。結局は「私が一番得しちゃったかも。」なんて言っていました。

また子育ての中で特に思春期の子どもを持っているといろいろと悩むことも多くて家庭では気持ちがすれ違ったりしていたのを、そこにくれば親子関係というより仲間になって、そこで逆に子どもに教えられるという関係ができて、親子関係がギクシャクしていたのを脱しちゃった、ということがあったりしました。一人の楽しさがみんなの楽しさになるというようなことが体験として何十人かの中に生まれたので、これは大きな発見だったなと思いました。

人のつながりというのが単に声を掛け合う、もちろん声をかけあうには心のつながりがいりますけれど、それにプラス「自分ができることをして、そのことが自分を楽しくして、まわりも楽しくしていく。」というその発見がとても大きくて、おおがかりなミュージカルはそう毎年やれることではないですけれど、なんらかのかたちで続けていきたいなと今思っているところです。